スタートアップの一部上場企業へのM&A経験者、朝倉雅文氏のインタビュー

【今回のインタビュー】
 朝倉雅文


都市銀行で東京にて法人融資を担当、人材紹介会社にてIT支援部、経営企画部、グローバル企画部にて事業開発担当。シンガポール移住後、シンガポール現地にて代表取締役社長を2社務める。東京帰国後、機械学習×3DプリンターのスタートアップにてCOO、プロダクト統括責任者、事業執行役員、経営企画部執行役員、海外事業開発部執行役員等を歴任、経済産業省対応等を行う。2017年東証一部上場大手メーカーへM&A、PMIを対応。

今回は起業家の朝倉雅文氏に基調講演して頂きました。つなぐIP編集部より、今回スタートアップの知的財産戦略に関してインタビューさせて頂きました。

―ご経歴を拝見させて頂きましたが、様々なご経験をお持ちかと思いますので、最初にその辺りを伺わせて頂けますでしょうか?

そうですね、それでは、最初にその辺りをまず詳しくお話させて頂ければと思います。

―ありがとうございます。それでは、最初に自己紹介をお願い出来ますでしょうか?

はい。ここ数年はスタートアップの世界でCOOや執行役員などの経営全般に携わっておりますが、新卒では都市銀行に入行し、財務分析や経営分析からキャリアをスタートしております。その後大手人材紹介会社で法人営業や情報システム部門、経営企画部、グローバル企画部などで経験を積ませて頂きました。経営企画部門ではM&A関連業務がグローバルで発生し、M&AのPMI(Post Merger Integration)の対応について学ばせて頂きました。

 ※シンガポールのラッフルズプレイス周辺にて

その後、東京からシンガポールに移住し、シンガポールで2社の代表取締役社長を務めました。世界中から仲間を集め、スペイン・アイルランド、インド・ミャンマー・フィリピン・中国・シンガポール・マレーシアの仲間たちと働いてきました。

シンガポールでは人材紹介事業では代表取締役社長として多国籍のメンバーを率いながら、BS/PL/CF責任及び、ASEANにおける海外事業戦略策定や事業計画の策定などを担当して参りました。このタイミングで、エンジェル投資家やVCの方々とお会いする機会に恵まれました。資本政策やExit戦略に関して考えるきっかけとなりました。

Webサービスの事業においてはASEANのエンジニアの方々とお仕事をご一緒させて頂く事が多く、プロダクトマネジメントからプロジェクトマネジメントなど、プロダクトのサービス開発に関して要件定義や画面設計をグローバルな体制で対応していく経験を積む事が出来ました。

東京帰国後の2016年1月、機械学習×3Dプリンターのスタートアップに参画致しました。海外事業Directorとして入社し、ドイツ・スウェーデン・アメリカ・エストニア・インドネシア・オーストラリア・ドイツ・台湾・中国・イギリスの仲間と共に海外事業を展開して参りました。

※海外出張の際に立ち寄ったドーハ

また、経済産業省の方々とお仕事をさせて頂く中で、一スタートアップではなく、国の視点を踏まえて経営を考える事が出来るようになったのは大きな気づきとなりました。特に、ドイツから発生した第四次産業革命のコンセプトのもとに経済産業省のIoT推進ラボに採択されたり、製造業のデジタル化に向けて取り組んでいく中でただ事業を創り出していくのではなく、新しい産業を創り出していくとの重要性を改めて肌で感じる事が出来るようになりました。

旧来産業ではなく、新しい産業を創り出していくというプロセスの中で、国籍、人種、性別、学歴などに関係なく、挑戦し続ける事の出来る世界の実現に向けて最速で動いていけると感じる事が出来ました。これは、人材紹介会社時代に新規事業推進部で2005年当時二十代の転職に関して認知・理解の低かった第二新卒のマーケットを創り出していくときも感じた事であり、また、外資系ヘッドハンティングマーケットを創り出していく際にも感じた事でもありました。

役割としてはCOO、事業執行役員、経営企画部執行役員、プロダクト統括責任者、経済産業省対応など幅広くい分野を担当させて頂き、東証一部上場企業へのM&Aにおけるバイアウトまでハンズオンでご一緒させて頂きました。具体的にはソーシングからDD(デューデリジェンス)対応、クロージングまで対応させて頂き、その際に知的財産権の重要性に関してはファイナンスの観点からも実感致しました。

また、人工知能領域における機械学習のプロダクト案件や特許戦略に関してはAIにおける一部上場企業と連携したプロジェクトやPreprocessingからモデル開発の重要性の経験。また、製造業領域における3Dプリンターや射出成型、金型といった試作品から量産品に関わる分野における経験を積まさせて頂きました。

―今回の知財戦略セミナーの講演きっかけはどのような?

日本・シンガポール双方でM&Aに携わってきたのですが、東京のスタートアップで仕事をしている中で、知的財産権の重要性を現場で感じたにもかかわらず、その重要性がスタートアップの経営レイヤーに認知・理解されていない現状とのギャップに課題を感じたというのがきっかけです。

※海外出張の際のシンガポール

例えば、製造業の場合デザインには意匠権があり、競合優位性の担保やエクイティファイナンスにおいては重要な内容なのですが、スタートアップのシード、アーリー、シリーズAクラスの経営陣の方々でもこのあたりの知見が不足している部分があり、これはなんとかしなくてはならない、と感じたのが経験としてあります。そうした観点を踏まえて、今回講演させて頂こうと考えた次第となります。

※製造業の量産が発展している中国深セン出張

資金的に大手企業と比べて余裕がないスタートアップの場合、どうしても知財戦略に関して後回しになってしまう傾向があるのは理解できますが、Exitから逆算した場合知財戦略に関して重要性を正確に理解しているか否かで、結果は大きく違ってくるかと思います。そうした点を、微力ながら解消に向けて動いていければと考えた次第となります。

―「AI時代のスタートアップ×知財戦略セミナー」との事ですが、AI時代という点に関してはどのようにお考えでしょうか?

私はAIの研究者ではありませんので、あくまでも経営サイドとしての一意見としてご参考として頂ければと思います。まず、前提ですが、AIに関しては汎用型人工知能と特化型人工知能に分かれますので、現在実務的に活用されている特化型人工知能について述べさせて頂ければと思います。よく勘違いされることが多いのですが、AIはなんでもできる魔法の箱ではありません。ざっくりと大別させて頂きますと、人に近い方向性を目指す「強いAI」とあくまでも機械が活用出来る「弱いAI」の違いをきちんと認識し、特化型人工知能における機械学習に関してきちんと理解する事が現在のAIに関して理解するうえで重要な事だと考えています。

経営者側としては、難しそうだな、とソフトウェアエンジニアに任せきりにするのではなく、自分自身で手を動かして理解することが大切だと考えています。

プロジェクトマネジメントや要件定義はプロダクト開発によって重要な要素ではありますが、AIに関しては例えば機械学習に関してPythonでコーディングした際に現状のライブラリがどれだけ活用できるのか? 機械学習の精度がどのくらいなのか? 座学で勉強しているのと自分自身で手を動かすのでは大きく差が生じるかと思います。

自分自身で実際にプログラミングをする事で、世の中で言われているAIというものと実際のAIの際が体感でき、自分自身の言葉でAIについて語る事が出来るようになるのではないかと考えております。

―実際に知的財産権はスタートアップの世界でどのような影響があるのでしょうか?

まず、スタートアップの世界において知的財産権は非常に重要であり影響力は大きいです。私はM&Aの経験が多いのですが、その中で無形価値として知的財産は重要な位置を占めます。例えば、ある特定の分野のサービスにおいて特許を取得しているか否か? というのはM&Aにおけるバイサイドから考えた場合とても重要な要素です。ちなみに、この場合の特許は一つだけでなく、その関連分野も含めた束としての特許となります。

また、そこに至るまでの資金調達においてもDDの際には知的財産に関してはしっかり戦略的に対応している場合とそうでない場合は影響が出てくるかと感じております。社名やサービス名に関しては商標権が、デザインに関しては意匠権が影響してきます。R&D領域のように、コア技術開発が重要な場合は特許が事業全体に影響してくるかと。

―現状の知財戦略の課題はどのようにお考えでしょうか?

スタートアップのエクイティファイナンスにおいてはExit戦略と知財戦略を相互に関連させた戦略までなかなか落とし込まれていない点が課題かと感じます。もちろん、通常業務における知財の影響はあるのですが、スタートアップの場合資金調達やIPO、M&Aといったフェイズでお法務DDとの兼ねあいをどれだけ初期段階から想定して戦略設計が出来るか?という点が重要かと思います。

また、個社毎に違ってくるかとは思いますが知財戦略に対する予算配分の問題もあるかと感じております。スタートアップの知的財産の担当者の方からはよく、予算がいただけないのですが、といったご相談を頂きますがこれなどはまさに顕著な例でして、経営サイドが知的財産における予算を計画的に準備しておくことが必要になってくるかと思います。

事業計画書を策定するにあたり、プロダクトやマーケティング、カスタマーサクセスの費用は目に見えやすく優先順位が上がりやすいのですが、知的財産の費用に関しては予算分配において販売費及び一般管理費の一項目に埋もれてしまい、個別に予算化されることが少ないのではないかと懸念しております。

―今後の知財戦略についてのお考えを聞かせてください

より簡単に知的財産権に関してスタートアップや新規事業開発部門で認知・理解される状況になると嬉しいかな、と思います。弁理士や弁護士の先生方だけでなく、新規事業責任者やCXOクラスの人材が基礎知識として知的財産権について理解している世界を創り上げていきたいと思います。ただ、知的財産権は、それ自体は目に見える形のあるものではありませんので、正直イメージしづらい部分もあるのかな、と感じております。そこに関しては、デザインやテクノロジーの力を組み合わせて、より一般的に知的財産権が広まりやすい世界となり、挑戦者が増えていく事で新しい産業が創り出されていく世の中になっていく事に貢献出来ればと考えております。

私自身は一貫して誰もがゼロイチに挑戦しやすい世の中となり、新しい産業が作りされていく事で、国籍、人種、性別、学歴に関係なく挑戦し続ける事の出来る世界を創り出していければと考えております。その為に、今回のようなセミナーが知財戦略に関して経営層の方々が知見を深める一助となれればと思います。

編集部からのコメント
今回は基調講演者のインタビュー記事でした。編集部といたしましては、スタートアップにとっての知財戦略に加えAIに関する考え方やアプローチの仕方について考えるきっかけとなる内容だったかと感じました。

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